T$UYO$HI(The BONEZ) インタビューvol.36

drug store cowboyとしてデビュー後、Pay money To my Pain、そしてThe BONEZと活動を続けるベーシストT$UYO$HI。数々の作品と唯一無二のライブを示し続けるT$UYO$HIの魅力をこれまでの歴史と共に迫ります。PART.4はThe BONEZと今後について。

ー現時点での最新音源「Beginning」に込めた想い、そしてここから4人で始めるとした経緯を伺えたらと思います。

まぁ「Place of Fire」は、NAKA込みでの初レコーディング作品ではあるんだけど、俺の中では「Astronaut」と全く違っていて、”本気モードの作曲スイッチ”が入った後ってのもある。それは何かというと「Astronaut」のとき、まだP.T.Pがある状態で作っていたもので、「Beginning」はZepp Tokyoのライブを終えた後に作ってるのが大きな違いですね。

ー全てをThe BONEZに注げる状態であることは、確かに大きな差ですね。

そうです。あとは結婚してすぐ震災があったから、新婚旅行に行ってなかったのもあって、去年の秋に嫁とカリフォリニアに行ってきたんですよ。

ー奥さんと行かれるのは初めてですか?

はい。いつか自分の大好きな人と、Kと過ごした場所に行ったり「Huntington Beach」を歩きたいって思っていたんです。初めてカリフォルニアに行ったときからちょうど10年だし、行くなら今なのかなって。
行ってきて感じたのが「なんか、アイツはまだそこにいるんじゃないか…」って。俺が日本にいて、Kがアメリカにいるときに会えない感覚に、なんだか近い感じがしました。

ー当時の会えない時間の感覚と似ていたんですね。

あとは “好きな人と「Huntington Beach」を歩く”っていう俺の願望の一つを嫁さんと手を繋いで歩いて実現させたんですけど、“そこを歩くことが目的じゃない”ってことに気づいちゃいました。

ーというのは?

”「Huntington Beach」を歩く”って行為よりも、嫁さんや子供達と毎日を暮らせている、その日常こそが幸せというか…。要は、そう思える人と出会えて暮らしていることが、何よりも幸せなんだってことをあの場所に行くことによって、より実感しましたね。

ー特別な場所だった故に、気づきとなっていった部分もあるでしょうね。

ですね。それとやっと泣きました。Kが死んで、みんなに連絡をしたとき、受話器越しのヤツは泣いてたりしてたんですけど、俺は全然泣けなかったんですよ。葬儀でも、Kはいるけど蝋人形みたいで、全然アイツらしくないから実感がなかった…。でもその旅行の最終日にColdplayの曲を聴きながら、泊まっていたビーチ沿いのホテルで涙しましたね。

ーKさんと過ごしたロスやHuntington Beach。その街並みがT$UYO$HIさんにとってリアルだから?

そうですね。10年前、初めてKと行ったロスの旅行。あそこから第二期の人生が始まってると思っていて。もう1回、あのときの旅行をKとした気がしたし、この10年を一緒に振り返った気がしたというか…、第二期人生の終幕というか。

ーT$UYO$HIさんが、日本でのお葬式のときも含めて、実はちゃんとKに会えてなくて、この旅行で会いに行ったとも受け取れますね。

友達を含めて、近い人で人が死ぬってじいちゃんとばあちゃんしかいなかったから、すごい怖いなって思うくらいで、死に対してまだ理解をあまりしていなくて…。だから「K、よりによってオマエかよ」って本当に思いました。
やっぱりP.T.P、特にKと嫁の存在が、俺の心の2大柱だったんです。まだそこに嫁と子供達がいてくれたから、俺はKを失ってもなんとか立ってられた…。

ーT$UYO$HIさんにとって、身近で大きな存在だったからですね。

もちろん友達っていう、また別の大きな存在もありますけど、それも結局その2人によっての部分が大きいので。だからKとの思い出の場所に、もう1つの柱である嫁さんと行けたのはすごく大きい。
本当にKと嫁さんに出会った以降の人生と、それ以前の人生は俺の中では大きく違っていて…。まったく違う人生と言っていいぐらい、大きくて重要な人物がKと俺の嫁さんなんですよ。

ーその気づきと共に放たれた「Beginning」は、先ほど”日常の幸せ”と話されましたが、The BONEZのメンバー同士も、家族のような繋がりがあって、RIZEでもP.T.Pでもない、唯一の場所であり、ここから始める” 第三期人生”の始まりを示せたと映りました。

The BONEZは、バンドのメンバー以前に、友達ありきなところで始まってる、ノリみたいなものがあると思います。

ー今までのバンドを経て、尚そういう関係のバンドが組めるっていうのは、なかなかないことだと思います。

ですねー。ただ結局人間はないものねだりで、例えば仲良しバンドで集まったら、もっと音楽性やテクが云々という話になったり、スキルがあるメンバーと組んでも人間性が云々って言うこともあるからね。

ーなるほど。「Beginning」から未来の話に進めていくと、「Beginning」は次のステップ・アップのものでもあると思いますが、The BONEZで目指すものをT$UYO$HIさんのひとつの意見として伺ってみたいです。

うーんとね、オーバーグラウンドでいたいかな。

ーアンダーグラウンドではなく?

P.T.Pって、アンダーグラウンドの中のオーバーグラウンドみたいなイメージがあったかもしれないけど、The BONEZはオーバーグラウンドの中の1番尖ってる部分でありたい。

ーマイノリティな音楽をやってるわけでもないですし、お茶の間に見せても通用するくらいの棘のような?

そうですね。そういうキャッチーな要素をJESSEは持ってると思うんですよ。ラジオで話してるJESSEもスゲエいいし、もっとやったらいいのに(笑)。それこそ健(Ken Yokoyama)さんがMステ出たじゃないですか。そうやって、ロックバンドがカッコイイってことを伝えたいかな。

ーそれをThe BONEZとしてやることに意味がある一方、ロックバンドが置かれてる状況はT$UYO$HIさんがそうお話される程、市民権を得ていないと考えられますか?それこそ、ミュージックステーションで観たBUCK-TICKやX JAPANも、当時は決してオーバーグラウンドではなかったですよね?

そう、最初は一部少数派ですよね。学校のみんなは知らないけど、私は知ってるっていうアンテナ敏感キッズにキャッチされるバンドでもいたいっていうのもあって。やっぱ、そういうカルチャー感っていうのは大事だから。良い意味で、音楽は誰でも作れる時代になったけど「この人みたいになりたい」って思える、華のあるバンドは海外も含めて減ってる気がするし、尖ってる人はあまりロックを選ばなくなってますよね。

ーカルチャーとして根付かせるのは、The BONEZだけが頑張ってもなかなか難しいと思うんですね。ただそうやることによって、後に続くバンドやアーティストが出てくるっていうのもありますよね。

もちろん。だから俺自身は、すごく狭間の世代というのを感じてて。90年代のバンドバブルな先輩たちを見てきて育ったけど、あの時代の恩恵をあんま受けていなかったり、P.T.Pを始めたときはラウド系のバンドはまだまだ少なかったし。でも、今やWarped TourにCrossfaithやONE OK ROCKが出たり、coldrainもガンガンワールド・ワイドに活躍してて、P.T.Pってその橋渡しの役目だったのかなってことも思ったし。

ーその悔しさもあり?

「すげーな!」と思う反面、やっぱ「P.T.Pでこういうこと出来てたらなぁ」とか、「当時こういうことが出来てたらなぁ」ってのは正直思います。例えば今の音楽性になったBMTHと対バンしたかったなぁとか。でも、The BONEZがそれを目指してるバンドなのかと言われると、そこはそうでもないんですよ。

ー海外に目を向けていないというよりは、それが目的ではないという?

「やれるならやりたいです!」って感じだし、洋楽はもちろん好きだけど、今は海外への憧れは昔ほどないかな。その辺はCrossfaithやcoldrainに期待してます。

ー海外でのロングツアーなど、彼らは頑張ってますよね。

ですね。やっぱり家族も大事だし、日本に残して2年間ツアーをやるとか今の俺らには厳しいし、俺が欲してるものは日本にはなくて、海外にしかないともあまり思わないから。活動の場所が色んなところにあって、求められているのは良いことだし、それは出来るならばやりたいけれども、あまりそこに重きを置いてないかもしれないです。というか、日本と海外をあんまり区切って考えていないのかも…。まぁ、家族みんなで行けるなら行きますけどね(笑)。

ーエアロスミスみたいに(笑)?

そうそうそうそう(笑)。やっぱりバンドと家族は、切っても切り離せない部分になっちゃってる。そこのサジ加減は難しいんですけど、それぞれ家庭やら事情がある。そういう状況でやってるのがThe BONEZなわけで。
俺は今年で41歳になるし、その上で自分たちが何をしたくてどうするか?20歳の子みたいに「バンドが全て!」ってアグレッシブに活動しようと思っても、そこには無理が出てきちゃう。

ー他のバンドがやることだろうし、また目指すものでもあるだろうけど、The BONEZがやれることはまた別のことだろうっていう。

う〜ん。まだ模索中だけどそんな感じかな。もちろん海外のライブもやりたいけれども、そこを目標に集まったバンドでもないから。

ー今回のインタビューを通して、それはすごく納得感があります。こうしてT$UYO$HIさんのバンドにまつわるお話を中心に伺ってきたんですけど、ミュージシャンとして、他の領域への興味はないんですか?

非常にあります。映画のサウンドトラックとかドラマやCMの音楽とか制作したい。

ー「赤々煉恋」で携わったような?

そうですね。アニメ・ドラマ・映画・CMとか、映像と音楽が合わさって表現されるものですね。それこそ、大学のデザイン科の面接で言ったことを覚えていて「映像と音楽が組み合わさったときの感動を作りたい」って言ったの。トレント・レズナーの映画音楽とかスゲエ好きです。あとは、昔からプロデュースもしてみたくて。それも、出来たらスタイリングも俺がしたい。

ービジュアル面も含めてということですか?

全部です(笑)。まぁそれは結局、素敵な素材ありきですけどね。俺、興味がないことには全然反応しないし、「ライブどうだった?」とか言われても「うん、正直ピンとこなかったなぁ」とか言っちゃうんですよね…。
もちろん逆にカッコイイバンドとか観ると、「悔しくないの?」みたいに言われるけど「うおー!めっちゃカッコイイ!!」とかすぐ言っちゃう(笑)。

ーそこがT$UYO$HIさんの、ウソがつけない良いところですよね(笑)。

でも、いざ仕事となると、良いと思ったものだけやるってのはなかなか難しいですからね。単純にゼロから何かを生み出すことより、既にあるものをもっと良くすることが、俺は得意な気がするんですよ。
例えばの話ですけど、ZAXに「かんちゃん、シャツは水色よりも白の方が似合うんじゃない?」とか?今あるものに対して「これはここをこうした方がもっとカッコよくない?」っていうのが割と好きです。

ーきっと、付加価値を見出すのが得意なんでしょうね。

まぁ、具体的にビジョンがあって、そういう人を探してきて何かしたいとかじゃなくて、何かを持ってる人を見たときに「こうした方がもっと良くなると思うな」っていう事から始められたらいいですね。

ーT$UYO$HIさんの興味アンテナの感度は、かなり高いですよね。その始めが音楽やバンドだったんだと。タイミングが合えば、先ほど仰って頂いたように、歯車は回るとも思えますよね?

まぁ興味があることは多いですね。ずっと「洋服、何でやんないの?」とか色んな人に言われてきたけど、それもタイミングというか。当時、「Kがやるのに、俺までやっても…」って思ったのもあるし。
最近はファッションに関して「やっぱ、すごいな」と思ったのは、清春さんかな。別に面識があるとかじゃないんですけど、インスタとか見てても、自身のブランドもそうだし、洋服のサイズ感だったり含め、あの人のアンテナはすごく敏感だなと思いますね。

ーThe BONEZのグッズでも、そんなアンテナは活かされていると思いますよ。

今年の夏にThe BONEZでフラワー柄のTシャツを出して、結構評判が良かったんですけど、あれは元々、単純に自分が欲しくて作っただけだったりします(笑)。

ーそういう、自分が欲しいものを作るという動機は大事ですよね。大きく言えば、生きて行く中で、バンド・自分自身への拘りを持ち続けているから、今のT$UYO$HIさんがあるんでしょうね。

大事。”自分をアッパーにしてくれる”という要素は大事ですね。洋服は音楽と同じくらい好きだし、お金もだいぶ費やしました。

ーストリートカルチャーに感化されている分、普段から上がるものを周りに置いておくようになったんでしょうね。

要は飽きっぽいんだと思うんですけど(笑)。色んな自分を楽しみたいんです。色んな音楽を聴きたいし、”これだけ”っていうよりかは、間口を広く持って、良いものは良いっていう。変な拘りはなくしたい。

ーThe BONEZの新しい楽曲たちも然り。

それは収拾がつかなくなってきてる(笑)。NAKAはもっとダウナーな感じの曲、UKっぽいものやアコースティックなものが好きだし。ZAXはああいうドラムを叩きつつも、ポストロックとかもっとナイーブな音楽が本当は好きだし。JESSEは、性格の通りというか明るいものが好きだしってなると、みんな好きなものが幅広いから、やりだしたらキリがなくて。どの感じを出すかによって、結構変わっちゃうし変えられるから「なんか、東京っぽいバンドだなぁ」と思ったりします。

ー”東京”ですか?元々、The BONEZ自体が何かに定義されているバンドではないですよね。それが、何をやってもThe BONEZの曲になる分、幅の広げ方が難しくなってしまうというのは理解できます。

でもやっぱり、しっくりくるのは”オルタナティブ”っていうワードかな。

ーグランジではなく?

そうですね。言葉に縛られるわけではないですけど。そういう中で、次のアルバムは俺もいっぱい曲作ったけど「どれをチョイスしよう?」っていう最近です(笑)。

ー(笑)。今、こうやって未来について悩めていること自体が健全ですし、バンドの状態も良い証拠だと思います。

でも人間だから、その状態を続けていくことは本当に難しいです。今回のインタビューもそうなんですけど、俺は何事も直球すぎちゃって。言い方や伝え方をもっと学習しないとなって思ってます。そもそもが人見知りで伝えられないこともあるし、思ってることは同じでも、その言い方や伝え方で違うじゃないですか。人を傷つけちゃったりもするし、そこの部分を成長したいなと思ってます。

ー初対面の人に対しては、T$UYO$HIさんの話は正しいと思うんですけれども、ある程度の仲になっていたりとか面識があると、逆にそこでT$UYO$HIさんの良さやキャラクターが消えるっていうのはあんまりよくないなというか。

キャラクターを消すわけではないんだけど、例えば「これやってよ」っていうのと「よかったらやらない?」っていうのとは違うじゃないですか。バンドの仲がいいメンツだからこそ、それがもっとうまくいく方法っていうか。何事も直球で言うことが、必ずしも正解じゃないなって思いますね。

ー親しき仲にも礼儀ありじゃないですけど、気遣いが出来るかどうかですね。

そうなんですよね。昔も言われたことあるんですけど「幸せなウソだってある。バカ正直に言うことが、必ずしもその人を幸せにするとは限らない」っていう…。それを出来るか言われると、まだなかなか難しい。

ーT$UYO$HIさんはウソがつけないですからね(笑)。

そうなんですよねぇ…だから成長するって大変なんだろうね(笑)。まぁ、これからも日々頑張りますので宜しくっす!って感じで。


取材:2015.07.19
インタビュー・テキスト:Atsushi Tsuji(辻 敦志) @classic0330
photo:Hiromi Morimoto、VIOLA、DAISUKE ISHIZAKA、YOSHIFUMI SHIMIZU、YOKO UMEMOTO

 

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