冨田ラボ インタビュー

ーサポートのお仕事は主にギターだったと思うのですが、作曲・編曲のお仕事をするのはそのあとになりますか?

それはね、微妙に重なっているんです。サポートしながら、家では多重録音続けてたんですけど、大学のバンドで一緒だったボーカリストに歌ってもらって、それを大学卒業する頃にコンテストへ応募したら受かっちゃったんですよ。卒業したあとはサポートもしながらバイトもしていたんですけど、それがきっかけで、その子と”KEDGE”っていうユニットを組んで1988年にアルバムをリリースするんです。

ーそういう経緯だったんですね。実は個人的な話になってしまうのですが「Rolling Like A Heaven」が大好きでして…

その受賞曲が正しく「Rolling Like A Heaven」ですよ。「Rolling Like A Heaven」を送り、コンテストとの賞品みたいな形で(笑)「COMPLETE SAMPLES」を制作したんです。それがきっかけで作曲や編曲のお仕事をするようになりました。当時の80年代後半は純然たる歌謡曲の流れがあって、一部の方々は別としても、アレンジをするにしても歌謡曲的なアプローチを求められることが多くて。サポートをやっていてもそういう曲が多かったですし。僕が好きな音楽と合わない状況がありましたけど、「COMPLETE SAMPLES」をきっかけに僕の音楽性で依頼が来ることは嬉しかったですね。

ー自宅での多重録音から、個人のスタジオを持つのはこの頃からなのでしょうか?

元から宅録的なスタイルをずっとやっていたので、スタジオを持つ前から自宅作業は多かったんですが、プライヴェート・スタジオを最初に作ったのは2002年なんです。最初はマンションの1室からスタートですね。ギターやボーカルが録れるくらいのもので、ドラムは生ではなくて自分打ち込むことが多いから、最低限といった感じです。結局、多重録音ですから家でやる作業が多いんですよね。80年代にアレンジしていたものは、ドラムの打ち込みやシンセ・パートは家で、エレキやアコースティックはスタジオで録るっていう流れだったんですけど、コンピューターの進化と共に全部が家でできちゃうようになった。そうするとスタジオの時間も短縮できるんですよね。

ー時間や制作予算とかの圧縮にも繋がりますし。

そう、あとは何よりも重要なのが”自分が納得できるまで作れる”ということなんです。スタジオって時間制約がどうしてもあるので、その中でのベストを目指すんですけど、家だと何も気にしないで突き詰めて行くことが出来ますよね?その結果がパッケージとして反映されることが、自分にとっては最も重要なので。そうなると、家を充実させることが目指す方向性を実現するのに最適だった、というのが大きいですね。

ー突き詰めていくと、もはや必然的に思えますね。

最初は、所属事務所のプリプロルームを借りて結局、僕専用みたいになっちゃったんだけど(笑)とはいえ、事務所のものなので他のアーティストが使用したいとなれば、当然譲りますし。となると、専用の場所が必要になって2002年以降はそういった場所を必ず持つようにして、このスタジオ(Tomita Lab Studio)を2011年に作りました。

ーでは、現在行われているプロデュースやソロの制作は、ほぼ賄えているんですね。

そうです。外のスタジオに行く場合はストリングスやホーン・セクション録る為にオオバコが必要になるときと、生のアコースティック・ピアノと録りたいときくらいですね。

ーこのスタジオで冨田ワールドを作り上げるにあたって、数多く揃えられている機材についても、いくつかピックアップして解説頂きたいです!

そうですね、ここでマイクで録るものの代表で言うと、アコースティック・ギターとアンプで鳴らすエレキ・ギターと歌ですけど、歌を録るときのマイク・プリはだいたい「FOCUSRITE」を使いますね。マイクは大体AKGの「C12VR」。あとは4050(AUDIO TECHNICA)ですね。ずっと4050を使ってたんですけど、最近は「C12VR」を気に入っていて、その場合のマイク・プリは必ず「FOCUSRITE」を使いますね。良いマイクに共通していると思うんですけど、情報量が豊かですよね。今でも好きですけど67は中域が安定していますが、C12の場合はもう少し上まで明るいマイクってところかな。その明るいマイクにありがちな、中域の密度が粗くないところが魅力ですね。

ー声の解像度が高いということでしょうか?

そうです。中域もきちんと録れていながら明るい。「FOCUSRITE」と「C12VR」の組み合わせが、最近多いですね。これで歌を録ったトラックのアコギはだいたいC12を使用します。その方が同じ高い域のサラサラした感じの繋がりが良い気がしています。

ーそれらのサウンドをチェックする、スピーカーがたくさんあって、こちらもお伺いしたいです。

「EVE AUDIO」を気に入って最近導入したんですけど、判断基準として「B&W」が多いかな…ボーカル録りしてるときとかは、この位置(B&Wと正三角形の位置)で聴くことが多いから。でも、1人で作業してるときはデスクがキャスター付きなので、もっと後方(EVE AUDIOと正三角形の位置)に座ることが多いんです。僕、エンジニア出身じゃないので、スタジオでもディレクターチェアの位置に何十年もいましたから。もうどちらも慣れましたけど、スピーカーの真ん中で聴くのに違和感があったんです。ミックスの最後の方だと後方で「EVE AUDIO」で聴くことが多いです。音色を決めるときは3つ(前2種+Focal)使って、頻繁に切り替えますね。

ー制作部分をお伺いさせて頂いた流れで、プロデュースについてもお伺いしたいのですが、冨田さんと言えばキリンジの作品との関わりが取り上げられることが多いと思うのですが、プロデュースという依頼はキリンジが初めてですか?

僕の初プロデュースがそうです。彼らが今も所属している所属事務所(ナチュラルファウンデーション)で、当時はレーベルもやっていて、かせきさいだぁとか居たんですよね。実はそのときに、僕もMOVESというユニットをやっていて「MOVING TRACKS」をそこからリリースしているんです。その関係もあって、代表の柴田さんはMOVESで何をやっていたか見ていたので、MOVESが終わったタイミングで「こういう男性2人組がいるんだけど、プロデュースどうですか?」って依頼を貰ったのがきっかけですね。デモテープを聴いて、「自分でも得意な感じだな」という印象を受けたのを覚えてますね。全く知らないところから来たというより、所属していたレーベルの代表から、次のアルバム制作と同じノリで受けたっていう感覚ですね。

ーこういった始まりから、プロデュースとしては1番多く関わっていらしゃいますが、作品毎にキリンジをプロデュースするにあたって変化はあったのでしょうか?

ありましたね。1番最初がインディーズ盤の「キリンジ」で、そのときは家である程度作ってからスタジオに持ち込んで、ディスカッションしながら彼らのギターや歌を入れていって制作していきました。それが終わったあとに「もっと前の段階から一緒にできないか?」という話があって、以降はまだ自分のスタジオ作る前だったので、事務所のプリプロルームで作業していましたね。デモテープを聴いて、僕がベーシックトラックを作ってその間、彼らは隣の部屋で待つっていう。で、出来たら聴いてもらってアイディアを出し合ったりして、また反映していってっていう作業をしていましたね。僕がやった最後の方はPro Toolsでしたし。今でこそ、HDD持っていけば良いですけど、当時はスタジオにシンセサイザー持って行ってましたよね。コンピュータも持っていって、その場で同期したりしてたなぁ(笑)

ー変化というよりは、扱う機材の進歩と共にという方が正しいですね。

そうですね、やり方がそこまで変わらなかったということは、そのやり方が良かったからなんでしょうね。

ーその他にもジャンルというものに括られず、様々なアーティストからのご依頼について、ご自身ではどこに魅力を感じられていると思われていますか?

バラードの依頼が来るとわかりますね(笑)キリンジをやっていたときはNONA REEVESとかSwinging Popsicleとか、その周辺のアーティストからの依頼がありましたし、MISIAの「Everything」のあとは中島美嘉やそういったアーティストからの依頼もありましたし。すごく大雑把に言えば、キリンジ周辺の音を聴いて依頼頂くのと、「Everything」をやった音を聴いて依頼頂いていたんだろうなっていう解釈をしていますね。

ーなるほど。それらはアーティストの声をイメージして制作に反映されるのか、それとも良い意味でイメージすることなく、先程のお話にあった”自分が納得するもの”を制作されるのかでいうといかがでしょうか?

完全にそのボーカリストに合う形で作りますね。例えば、全ての方がそうというわけではないですが、アレンジャーの方ですとメロディーがあってキーが分かっていたら、メロディーの形だけシンセの仮メロなどがあれば良いと思うんですけど、僕の場合はできるだけ仮歌を頂くようにしていて。それはすごく重要で、その仮歌を聴きながらアレンジをすることで、思い浮かぶこともあれば、選ばれた音色もあるという。

ー声から得られるインスピレーションと言えば正しいでしょうか?

そういう言い方もできますし、実際に声の音像と被らないように制作していくにあたって、想像でももちろん出来るんですけど、歌があることによって想像しなくても無意識で出来るという部分もありますね。

ーそれはリミックスのご依頼だと、また違ってくるものでしょうか?

リミックスも全く一緒で歌以外は聴かないです。「この素材を使って欲しい」という依頼がなければ歌以外の素材は使用しません。原曲は1回くらいは聴きますけど、原曲に対してどうテイストを加えていくかという概念はなくて、素材で頂いたボーカルに対してという考え方です。

ーお話を伺っていて、プロデュース・リミックスのどの制作でも”歌”という軸がある印象を受けたのですが、それは冨田ラボでも変わらないのでしょうか?

基本的には変わらないですね。ただ、冨田ラボで4枚制作していますけど、色んなケースが出てくるのも事実で…僕が作曲する段階では、アレンジの詳細まで作り込まないですし、その方が良いと思っているんですね。それは今言ったことに繋がっていて、ボーカリストとキーが決まってからサウンドを考える方が、絶対に良いものが出来るんです。一方で曲を考えついたときに、サウンドのことも思いついてしまうことがありますよね。思いついたときがベストっていう考え方もあるんですよ(笑)

ーアイディアが同時に出てくるってことですよね。

そこでサウンドまで作ったものに、実際にボーカリストが決まってキーが変わってしまったとしても、そのままのサウンドでやるっていうことも出てきたので。まあ先程の話とは矛盾するんだけど、ケース・バイ・ケースですね。

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