佐藤タイジ 独占インタビューvol.31

—「太陽光発電だけで大規模なロックフェスは可能なのか?」という問いに対して、成功という答えを示せたと共に「クリーンな電気は音が良い」という発明も手に出来たことは、今の道標にもなりましたよね。

最初は素人考えで「ソーラーパネルから、電池に貯めて発電する」というところからで、まずはロック・バンドが演奏すると、どのくらい電池が必要なのかを実験したんですよね。俺のマーシャルアンプをいつものコンセントから電池に差し替えて弾いたら、音のレヴェルが格段に上がってるんですよ。考えてみれば、ここで発電して余計なものを介してないから、ノイズが入る余地がないなと。音響エンジニアたちは、音をクリアにする為に時間と労力を使うわけだが、東電が公表している通り、流通している電気はきれいではないんだよね。だけど、独立して作ることによって、ノイズの無い電気を確保出来るし、音響機器に有効であることに気づいたとき、俺の道が照らされた気がしたもんね。「タイジ、こっち行けよ」って(笑)。

—(笑)。これこそ、音楽の力だと言えますし。

色んな人間の魑魅魍魎を飛び超える力やな。間違いなく、俺の力でもなければ電気屋さんの力でもなくて。あの武道館は、みんなで参加したことによる、音楽の勝利やったよね。やってみたらキレイだった(笑)というのはあるけど、巨大なギフトなのは間違いなくて。最初は、武道館が終わったときに、俺は泣くかなって思ってたの。

—初めての武道館で、且つソーラーだけで出来たという喜びもあったでしょうし。

CHABOさんは、俺を泣かしにかかっとったしね(笑)。ただ、やれたという事実が、誰かにとっては不都合な事実だろうなとも思ったわけよ。「やれました!」って言ったとき、完成して終えたというよりも、これが始まりで続けなアカンってなって、泣くのは違うなと。

—当初の「シアターブルックとしての武道館」という目標ではなく、ソーラーの力を発信するスタート地点に変わった出来事だったからですね。

そうやな。続けて行かんと、再生エネルギーだけでライブが出来るとか、太陽光の音はクリーンやという事実が広まらないってなったよね。その武道館の打ち上げで、協力会社から「野外やりましょう」というところから、その会社が中津川やったから「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」になって行くんやけど、もう武道館という場所の拘りよりも、ソーラーの拘りが大きくなってたね。

—しかも「中津川フォークジャンボリー」の開催地でもあったという。

「とても不思議な力に導かれているな」っていう感覚はあったよね。

—そして、昨年には「LOVE CHANGES THE WORLD」にも収録されている「もう一度世界を変えるのさ」を太陽光エネルギーのみでレコーディングされました。

ライブでやれているんだから、レコーディングもやるべきでしょうっていう、自然な流れだったよね。今回のレコーディングで前回と違うのは、シングルのときはアナログで録音したんだけど、昔の機材ってものすごい電気を食うんよね。だから、今回はPCで録音したくらいかな。

—実際の制作にあたり、20周年という節目も踏まえ、ゲスト・ミュージシャンは決めておられたんですか?

元々、「もう一度世界を変えるのさ」が出来たときに、俺のイメージの中では大人数で歌っている音像やったんよね。今回の「もう一度世界を変えるのさ album ver.」に行くためのシングルがあった感じ。

—言い換えると”album ver.”が”完成版”とも言えますね。

そうそう。これが第一にあって、せっかくだから他の楽曲にも参加をお願いしていったんだよね。スケジュール調整は大変だったけど、みんな快く参加してくれたし、これだけのミュージシャンが一同に会すというのは、ビジネスだけでは不可能やん。ソーラーがあって、そのコンセプトに賛同してくれて、こういうのがやれるバンドがあるということを知って欲しいしね。

—「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」も然り、「LOVE CHANGES THE WORLD」にはその未来を感じるというか。

人の繋がりも含めてね。要は、人類から経済まで膨らみきったのが今だよね。未だに「成長」とか言ってる人がいるけど、時代の流れを見ても、世界規模で人口も減ってるわけやん。その縮小を悪く言う人もいるけど、いかに危険なリスクを回避しながら、ソフトランディング出来るかやと思う。

—経済成長はともかく、人類の成長の果てが拝金主義ならば、それはもう通用しない時代であると。

そういうことやな。そこには、常に素晴らしい音楽は必要で、成長じゃなくて進化した人間の形になりうる作品が「LOVE CHANGES THE WORLD」だから、俺の人生の中でこの作品は大事なんだよね。

—タイジさんが一貫して提唱された「反対は続けられないけど、賛成は続けられる」という、決して負の事実を嘆き悲しむのではなく、如何に肯定的なものに変えていくかという”賛成運動”に繋がっていきますね。

うん。今年の初めにさ、ジャーナリストの後藤健二さんが亡くなった事件があったでしょ。その事件の前までは今年の「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」のコンセプトを「We’re gonna change」って考えていたの。でも、ただ変えるだけじゃダメで、何によって変えるのかが大事やと思ったんだよね。

—イスラム国のように”暴力”という術も”変える”ということに当てはまってしまうと。

「暴力に対して暴力」という連鎖を望んでないんですよ。そこで、清志郎さんの「愛し合ってるかい?」という言葉が、日本のロックの宝であり財産なんだなって思えたし、もう1度その言葉を日本のロック・ミュージシャンは振りかざすべきなんだろうなと。このアルバムでジョン・レノンと清志郎さんはちゃんとやりたかった理由もそこにある。

—ジョン・レノンがベトナム戦争時に「War is over if you want it.」と歌ったことをタイジさんが現代でも紡いでいくべきだと。

あの人が言わんかったら、ベトナム戦争が終わっていたかとも考えられるやん。あれだけ平和を流通させられたんやし、ジョン・レノンと清志郎さんが言う”愛”を真正面から受け止めて、もう1回やるべきやと思ったんだよね。

何で暴力を肯定するのかな。「これは戦争ではありません」「バカやろう!それを戦争って言うんだよ!」みたいなさ。

—抽象的な言葉で濁して、従来の憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権を行使出来るようにしたり。

そうだよね。今のそういう政治家が日本を引っ張っていると「3.11があったお陰でメルトダウンし、戦争するようになりました」っていう粗筋になるやん。それで、3.11で亡くなった人たちは納得するのか?俺は全くそうは思わないんだよね。

—また、これからの未来を次の世代へどう残せるのかも重要ですよね。

そうそう。今、SEALDsとか頑張ってるの見ると、すごい気持ちいいんですよ。俺も早い段階で「東京オリンピックの開会式と閉会式をソーラーで」って言ってたけど、ホンマにやらなアカンと思ってる。

—それを”音楽で”というのがタイジさんの活動の軸であり、「LOVE CHANGES THE WORLD」の持つ力だと思うんですよね。

やっぱり音楽ファーストやから。こういう考えや活動が出来てるのは、音楽をやってるからなんだよね。最近は言われなくなったけど「政治家になったらええやん」って意見があって「そうじゃないんだ」という話をいちいちしてたのよ(笑) 。

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