高野 哲インタビューvol.34

奇跡の復活を遂げたZIGZOと3ピースロックバンドの雄nil、ベースレス変則ピアノトリオTHE JUNEJULYAUGUSTに、シアターブルック・佐藤タイジと組むインディーズ電力と4バンドで縦横無尽に活動している高野哲が、さらに新バンド「THE BLACK COMET CLUB BAND」結成した。メンバーはnilとTHE JUNEJULYAUGUSTでの構成であるが、決してただの合体バンドではない。ツインドラムの5人編成から織りなす音は、唯一無二のサウンドでありながらも、このバンドの指針の1つともなった”ルーツミュージック”が垣間見れ、まさに圧巻である。全12曲を収録した「THE BLACK COMET CLUB BAND」について、高野哲よりその全貌を語ってもらった。

ーいきなりですが、nil、THE JUNEJULYAUGUST、インディーズ電力、ZIGZOに次いで、まさかのもう1バンドを結成されるという、一夫多妻な状況ですが(笑)。

最高ですね(笑)。偶然なんだけど、去年にやってるバンド全部でアルバムを出したあと、ZIGZOに関しては1年間ぐらい活動を止めようって話もあったから、2015年に向けて、nilとジュンジュラはどうやって動かすかなと思っていて。

ーどちらもある種、突き詰められた作品が完成したわけですし。

うん。完成形が出来ていたから、それを育ててツアーをやってくのかなって思ってたんだけどね。去年、nilとジュンジュラの2マンライブをやったんですよ。ファンクラブ限定だし、パーティー感を出そうと、アンコールで2バンド混ぜて、こっそりツインドラムはやってたんです。

ーそのときが”ツインドラム”の初お披露目だったんですか?

そのときは、既存のリズムを分解して、それを2人羽織り状態でやったんですよね。1人で出来ることをわざわざ2人で分けてるんだけど、本来1人でやれるフレーズと比べれば、ノリとか音量・音圧が違う。そのときに「おもそろいぞ!」って思っちゃったのと、ドラムが持ってるリズムの基本的な要素と、装飾音的なパーカッション的な要素は、ベースやギターで出さなくても、全部ドラムだけで完結が出来ちゃうなって思って。ベースもギターもすごいシンプルにして、そういうドラムでやってみたくなって。やってみたいと思ったことは、やんないと損(笑)。

ー(笑)。辿ると、もう4年前に新宿LOFT で行った、THE JUNEJULYAUGUST presents 【THE BLACK COMET CLUB vol.1】や楽曲としてリリースされた「THE BLACK COMET CLUB」から、今回のバンド名に?

もともと、稲垣足穂の詩であるんだけど「THE BLACK COMET CLUB」が響きも含めて好きで。THE JUNEJULYAUGUSTってバンド名を決めたとき、関係者に多数決とったんだけど、負けたのがこれだったの。でもずっとどこかに引っ掛かってて、曲名にしたりイベントタイトルにしてたんだけど、ジュンジュラを昔から知ってる人からすれば、「ややこしいことするな」って戸惑うかも(笑)。それで”○○BAND”っていう名でバンドをやったことなかったか名付けようって。ジュンジュラ、nil、インディーズ電力、ZIGZOって、クレジットが日本一長い男に(笑)。

ーギネス級ですよね(笑)。

ギネス級に長い(笑)。

ー因みに高円寺HIGHでのライブのときは、名義として「THE BLACK COMET CLUB BAND」ではなかったんですか?

ちょっとぼやかしてたし、そもそもオリジナルをやっていなかったから。「今後はオリジナルを作っていこう」っていう、気概のあるライブではあったけど、まだ本当にセッション程度のノリだったし、あれを初ライブとは思ってなくて。それで年明けから曲作りに入るんだけど、最初は全然曲が出来なくて、レコーディングまで4〜5カ月ですね。

ーそれまでの伏線として、昨年のファンクラブイベントでは、nilとTHE JUNEJULYAUGUSTの2マンで「さよならダヴィンチ」と「Roly Poly」をクロスオーバーさせ、音源としても「Paradise」「GRANVIA」に収録されましたが、実際に”別バンドとして”という構想はその時点であったのですか?

歌とかあんまなくて、とにかくリズムでゴリ押しするようなイメージで曲作りに入っていったんだけどね。

ー哲さん自身もギターに徹するぐらいの気持ちで?

そう。でも、そもそも俺も含めて、全員”歌”が好きなメンバーだし。歌が出口になってないと、曲として仕上がらなくて…。ドラムの2人も「フレーズをバラしてやる」っていうスタイルに対して、頭ではわかってるんだけど、体では難しいというか。実は俺も、ちょっとドラムやったことあるけど、ドラムセットに座ってると、周りの音って結構聞こえなくて、もう雰囲気でしか周りの音が聞こえないから、互いの音を聴き合うのが大変だったと思う。

ー細かい話ですけど、ドラムセットを2台置くスタジオを探すのも大変ですよね。

それは大変だった。

ー例えば、nilを究極の自由がある中で、深いテーマやコード感があるバンド、THE JUNEJULYAUGUSTを内面の闇を歌とリリックで紡ぐバンドと捉えられるとするならば、そろぞれのエッセンスはあるものの、ただnil+ THE JUNEJULYAUGUSTで「THE BLACK COMET CLUB BAND」としているわけではないと思いますが、このバンドでの”共通認識”みたいなものはあるんですか?

うーん、みんなで「共通項探し出していこう!」ってやるよりも、最終的には歌が出口になるような曲作りに変わっていったからね。なんだかんだ言って、3人同士でやっていたのが5人になって。”ツインドラム”が軸でもあり目玉でもあるけど、それで結果、何するかって言ったら、「5人でいい歌を歌おうぜ!」っていう感じが、今はあるんじゃないかな。

ーしかも、ただ歌を出口にしたわけではなくて、その歌を構成させる曲が、所謂スタンダードな要素が強い印象もあって。

そうだね。特に俺個人としては、nilもジュンジュラも”ルーツミュージック”みたいなものを避けてきていて。例えばブルースとかロックンロールの歌い継いでいく感じとか継承していく感じ、普通にスリーコードって意味でもそう思うのね。でも、それもロックバンドの1つのスタイルでもあるし、今回は敢えてそういうものを探りたくなってる時期になってるのかわからないけど、割と初めてそのムードを出しているような気がして。

ー60年代〜70年代の音楽に挙げられる要素はありますよね。

今までは、出そうになると出さないで違う形にしてたんだけど(笑)、今回はバンドとバンドを知らないみなさんを繋ぐ材料としても、その中にちょっとルーツミュージックっぽいものを隠さずに前の方に出しましたね。

ー因みに音源を出すにあたって、きっかけともなったそれぞれのバンドでクロスオーバーした楽曲を収録するという方向には行かなかったんですか?

うん。全く違うものとしてやりたかったし、それだとnilとジュンジュラのファンの方が、ただ喜んで終わりになってしまうので。やっぱり、全く新しいバンドとして、知らない人にも既に知ってる人にも、同じスタート地点に立って聴いて欲しいなっていうのがあった。

ーなるほど。入口のきっかけにはなったけど、既存の楽曲でやることは、新たなバンドという平等性が崩れますもんね。

そう。ツアーのリハーサルを始めてて、持ち曲がアルバムの12曲だけど、誰もnilとジュンジュラの曲をやろうって言わないですね。

ーその12曲は、全て哲さんからのものですが、これはレコーディング前に原曲は作られていたんですか?

最初に、リズムを主軸にしてたセッションで「このリズム良いよね」っていう、断片的に残ってたものと、いつも自分の歌とギターで作る要素が、良い感じにミックスしたのが、だいたい原曲になってますね。

ーということは「THE BLACK COMET CLUB BAND」として、5人で奏でるという部分の意識が強かったのでは?

すごく。例えば、ライブのことは想定していて「30分間延々同じプレイをしても、お客さんを満足させられるジャム・バンド」みたいなイメージでもあったから。でも結局、みんな歌が好きだし、飽き症でせっかちだから、そうはならなかったけどね(笑)。

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