高野 哲インタビューvol.34

ー実際のレコーディング期間はどのくらいだったんでしょうか?

だいたい2週間ちょいぐらいで、実際の録りが10日ぐらいかな。

ーバンド構成が特殊ですし、且つ初めてのアプローチな中で「その期間でやれちゃったんだ!」っていうのが、正直な感想ではあるのですが。

メンバーとスタッフ全員が「ツインドラムのバンドをやったことがない」っていうのが、まず大事件で(笑)。トリオだと、録りに1週間も掛からないんだけど、単純に5人バンドだと考えたら、そもそも録音の量がトリオより2つ多いし、しかもドラム2台っていうね。だからまず、レコーディング初日に精密なデモテープを作ることから始めて。レコーディング初日って、セッティングと音決めに半日は掛かる。いつも使ってるスタジオとエンジニアでやってもそうだから、どうせなら「音決めをエンジニアがしてくれてる間、同時進行でバンドはデモレベルでざっくりと全曲を録ってしまって、目に見える音楽地図を書こう」と思いついたのが大きいですね。

ー探りながら望むことも想定出来ていたけど、初日である程度の表情が見出せたということですか?

うん。これがすごい重要だった。このやり方を初日にやって、例えば歌も仮歌で歌うんだけど、悩んでた歌詞も「これでいこう」ってなったし、次のプロジェクトでもこうやるのもいいなって。

ー端的に言い換えると、すごく効率的ですよね?

そう。2日目以降は12曲分のセッション・データを、全て上書きしていくっていう状態だったからね。

ー収録曲について伺っていきたいのですが、「The Party Song」のフロア・タムが始まりにぴったりですが、ツインドラムの考え方として、例えばギターで言う、リズム・ギターやリード・ギターという分け方をされているんですか?

リズムと上モノという分け方は近いかもしれないですね。

ーその役割分担や構成については、風間さんと梶原さんが話しあって?

最初は俺のイメージを2人に伝えてたんだけど、自然と役割分担が出来てて。最終的には、風間がボトムにいて梶が16インチのすごい小さいバスドラを使ってるから、ちょうど良い上モノって感じのドラム。「The Party Song」だと、ギターはドラムとぶつからないように極力シンプルなことしかやらなくて、装飾音はいらないっていう。特に、ギターとベースが裏のノリを出してくるっていうのが普通はやるべきなんだけど、これは良いバランスでミックス出来ましたね。

ー哲さんの歌詞の言葉遊びも、リズムに近いような表情があって、nilやジュンジュラではない要素がいきなり全開ですしね。

適当ですけどね(笑)、そう言ってくれて良かった(笑)。

ー「Hide & Seek」では、どことなくプログレっぽさを感じたのですが、佐藤さんの音色が印象的ですね。

そもそもクラシックよりのピアニストだから、彼の中にはプログレは全くなくて、キーボーディストの多彩な音色ってもの自体は、全く得意分野ではないっていうか。ある種、彼にとっても全く違うことをやってもらったから、認識は全くないと思うし「この曲には、きっとこうだよね」っていう、想像みたいなのでしかやってないと思う。

ー佐藤さんの中にモチーフがあるわけではなくて、あくまで楽曲からインスピレーションした結果、この音色になったんですね。

本当は全部ピアノで弾いた方が、彼にとってはハマるはずなんだけど、でも今回は「ジュンジュラじゃないからね」って。それは全員にとっても、初めての試みであるはずで。本当は、俺もギターで裏のカッティング出していきたいけど、それをやらないっていうのは、ある意味違う手法だしね。勝さんもドラマー2人もそうだし、もちろん統の鍵盤も。

ー細かな要素ですが、nilやTHE JUNEJULYAUGUSTでは、哲さんはギターを固定されているイメージがありましたが、今回は曲によって変えられているんですか?

ステージはまたちょっと新しいのを使ってるんだけど、今回のレコーディングは全部335でマーシャルを鳴らして。それこそ、ルーツミュージックじゃないけど、1972年製造のあのギターで、全て出すっていうのをやりたくて。

ーなるほど。歌の「もういいかい?」「まあだだよ!」の奥行き感も、すごくリアリティが出ていて、ちゃんと「もういいよ」でボリュームも絞られる遊び方も、このバンドだから出来るんだなぁと。

「こうした方がいいよな」「統はライブのとき、あれやってね」みたいな感じで、レコーディングでミックスしながら、次のライブのこととか決めてる。どうアレンジしていくかも、ミックスしながらみんなで話し合いましたね。だから、既にライブでこの曲をやるとエンディングが伸びてる(笑)。

ー(笑)。「No.9」は、ダンクラ的な要素が入ったナンバーで、リスナーからも「こっちの引き出しあったの?」ってなるような曲に仕上がっていますね。

この感じを8ビートにした雰囲気の曲は、nilでもよくやってて。その雰囲気のままいかずにぶっ壊して、違うものとして聴かせるっていう、俺のやりがちなことなんだけど(笑)。

ー確かに(笑)。

今回は、俺のルーツミュージックの中にはファンクもあるし、それに対するオマージュでもある。せっかく統くんが良い音色持ってるし、キーボーディストとか弦楽器の人がいないと、この感じって出来ないからね。

ーそして歌詞では、憲法9条を掛けているかのような内容にも関わらず、ここまでポップに鳴らすこと自体が、最強のアンチにも思えました。

どうなんですかね(笑)。でも「No.9」って聞いて、憲法第9条ってすぐに思う人は珍しいですよ。

ー本当ですか?

この時期だから、みんなすぐ気づくかなと思ったけどね。メンバーも「なんだ?なんだ?」って、しばらく考えてて(笑)。

ーある意味、それで楽しませる情景が浮かんだり、その雰囲気が勝ることがこの曲にあるならば、それはそれでいいのかもしれないですね。

うん。意味合いがそうだとしても、ゴキゲンに楽しめちゃってるっていうのが、俺は美しいなと思えちゃう。

ーそれがこの曲の魅力ですしね。次の「Jolly Roger」では、「No.9」の後なだけに某○○党の旗を連想してしまうんですが(笑)。

あぁ、なるほど!そこまで深く意味を持たせてなかったけどね。

ーいらない深読みでした(笑)。ただ、もちろん歌詞の内容もそうなんですけど、コードもビートもロックのど真ん中で、哲さんの描かれているルーツミュージックに対して、5人のバトル感がすごく見えますよね。

うん、そういう風に話聞くと、今まではシンプルなスリーコードの曲調をあまりやってこなかったなと思いますね。もともと、梶のスネアのロールが聴きたくて作ったようなもんなんだけど、既にライブでも盛り上がってて。だって「GABBA GABBA HEY」だから(笑)、みんな好きでしょうっていうね。

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