ポール・マッカートニー、ワールド・ツアー初日ケベック・シティ公演速報レポート

現地時間9月17日、ポール・マッカートニーの新たなワールド・ツアー「フレッシュン・アップ」ツアーが初日を迎えた。会場となったのは、カナダはケベック・シティにあるビデオトロン・センターで、ケベック・シティはカナダでも特別大きな都市というわけでもない。なにせポール・マッカートニーである。それこそロンドンでも、ニューヨークでも、ロサンゼルスでも、ワールド・ツアーの初日を華々しくスタートさせることは可能なのに、今回のツアーはこの街からスタートする。

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ケベック・シティの市内では歩道橋にかけられた横断幕、街頭から下がるフラッグ、バス停、様々な場所に屋外広告が掲示されている。世界遺産となっているケベック旧市街の歴史地区があり、きっての観光地としても知られるこの街だが、街中でもザ・ビートルズのTシャツを着た人を見かける。ビデオトロン・センターは約2万人を収容する会場で、周辺一帯はこの牧歌的な街に似合わない祭典ムードに包まれている。開場時間の前から東西2つの出口には長蛇の列ができ、会場のすぐ外にはロンドンの2階建てバスに似たケベック・シティの観光用バスが乗り付けられ、その屋根に乗ってバンドが演奏し、ゲートを抜けて会場のエントランスに入ると、ここでもアコースティック・デュオがパフォーマンスを行っている。会場の外には地元のテレビ局も取材に来ていた。

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物販を見てみると、日本にちなんだ商品も販売されていて、ツアー名の「フレッシュン・アップ」にかけて、「リフレッシュする」という文字が比較的大きく書かれたTシャツを発見。売り場の前はすごい人だかりで、なかなかマーチャンダイズを買うことができない。そんな風に時間を過ごしていると、あっという間に開演時間が近づいてくる。ポール・マッカートニーのコンサートにおける開演前のBGMと言えば、手掛けるのはDJのクリス・ホームズだが、今回はステージ両脇のスクリーンを流れる映像も新たなものとなっていて、パステル・カラーを基調としたコラージュや超高層ビルを思わせるイメージなど、格段に洗練された印象を受ける。ポールやザ・ビートルズの音源をミックスするDJクリスだが、お得意の“Coming Up”のリミックスから“Mrs. Vandebilt”と繋ぎ、“A Day In The Life”のあの最後の音が流れると、いよいよ開演だ。

まず、先頭を切って、ポール本人がステージに入ってくる。この日のジャケットの色はブラウン。当然のことながら、すさまじい歓声である。ポールは左右のスタンドにそれぞれ手を振り、正面にも手を振った後、始まった1曲目は“A Hard Day’s Night”だった。先日、YouTubeで生配信されたニューヨークはグランド・セントラル駅でのライヴでもオープニングを飾っていたが、そこは画面越しと生の違いだろうか、それを都合よく解釈する自分勝手さだろうか、この日のほうが声が出ているように感じる。その印象は2曲目の“Hi Hi Hi”で更に強くなる。コーラスのシャウトを難なくフルスロットルで歌うポールを見ると、これで76歳なのかと思わずにはいられない。「古い曲だ。知ってるかもしれない」というポールの紹介から始まった3曲目は“Can’t Buy Me Love”なのだが、ステージのバックスクリーンに映し出されるのは映画『ヘルプ!4人はアイドル』などからのフッテージを惜しげもなく使ったもので、これが初期から中期にかけたザ・ビートルズへのファンへの想いを否が応でも駆り立てるものとなっている。

「フレッシュン・アップ」=一新すると名付けられた今回のツアーだが、今回の大きな新機軸の一つが4曲目の“Letting Go”で登場する。1コーラスを終えたところで、左側スタンドの客席に現れたのは3人編成の生のホーン隊だ。ギタリストのラスティ・アンダーソン、ギターとベースを担当するブライアン・レイ、ドラマーのエイブ・ラボリエル・ジュニア、キーボーディストのポール・“ウィックス”・ウィッケンズという不動の布陣で回ってきた近年のポール・マッカートニーのツアーだが、今回のツアーではここにホーン隊が加わっている。その粋な登場の仕方も含めて、観客のヴォルテージは一気に上がり、曲の後半では会場中にハンドクラップが広がることになる。

MJ KIM/MPL Communications

Photo: MJ KIM/MPL Communications

ラスティによる強烈なギターのフィードバックから始まったのは“Who Cares”で、続く“Come On to Me”と今月リリースされた最新作『エジプト・ステーション』からの楽曲が披露されるのだが、この始まりのせいもあったかもしれない。ライヴで聴くサウンドはアルバム以上にロックンロールだ。これは今回のツアーでザ・ビートルズの曲をやっている時にも感じたことなのだけれど、ザ・ビートルズの楽曲やロックンロールそのものに対する距離がさらになくなっているというか、てらいがなく、そうしたポールの意識はバンドのサウンドにも自然と反映されている。

この日初めてポールがギターを持った“Let Me Roll It”では演奏中にポールとエイブがふざけたやりとりを見せる場面などもあって、ワールド・ツアーの初日だというのに、この余裕だから畏れ入る。続いたのは“I’ve Got a Feeling”で、この曲はポールの声がどれだけ出ているかのバロメーターに最適だと思うのだけど、やっぱりちゃんと出ているように感じる。久しぶりとなった“Let ‘Em In”、“Nineteen Hundred and Eighty-Five”、“Maybe I’m Amazed”というウィングス&ソロの3連発を経て、ザ・ビートルズの“I’ve Just Seen a Face”を演奏したところで、今回のツアーは新たな展開を見せ始める。

「遥か昔に戻りたいんだ。僕らが初めてレコーディングをした頃にね」とポールが言って、ザ・クオリーメン時代の楽曲“In Spite of All the Danger”を披露した後、演奏されたのがこの曲だった。今回のツアーで1964年以来、54年ぶりにセットリストに加わることになった“From Me To You”だ。これだけのヒット曲がそんなにも長い間、演奏されないまま残っているというのもザ・ビートルズの底知れなさだが、感動的だったのはポールのキャリアの最初期にアリーナ全体がタイムスリップするかのような、その演出である。バンド・メンバー5人がステージの前方にこぢんまりと集まると、2枚のスクリーンが上から降りてきて、そこに映し出されるのはザ・ビートルズが有名になる前の写真で目にするような、あばら家なのだ。エイブは普段より一回りも二回りも小さいドラムが用意され、そうして“From Me To You”が演奏される。その姿はポール・マッカートニーのキャリアの原点となるバンド少年そのもので、このセットのまま、“My Valentine”を挟んで、“Michelle”や“Love Me Do”といったかつての楽曲が演奏される。

公民権運動に触れ、「この会場に“Blackbird”は何人いる?」と呼びかけた“Blackbird”からコンサートは後半へと突入し、“Here Today”を「ジョン(・レノン)に捧げるよ」と言うと、しばらく収まらない大歓声が起こる。その温度は日本以上だ。ライヴでは定番の“Lady Madonna”、カニエ・ウェストやリアーナとのコラボレーションである“FourFiveSeconds”、そして、ポールがキーボーディストのポール・“ウィックス”・ウィッケンズを讃えた“Eleanor Rigby”を経て、新作より“Fuh You”が披露される。ポールの故郷、リヴァプールで撮影されたというモノクロのミュージック・ビデオの映像がエディットされ、ワンリパブリックのライアン・テダーらしいコンテンポラリーなメロディーをポールが歌っていく。

もちろん、ジョージ・ハリスンの名前が挙がった“Something”も大歓声と巨大なシンガロングに迎えられる。そして、この後半戦で本領を発揮していくのが、今回のツアーで新たに加わったホーン隊だ。ポールのライヴ・サウンドというのは、これまでもザ・ビートルズのサウンドを念頭に非常に緻密に築き挙げられてきたが、ホーン隊が加わったことでライヴ感が増していくのだ。“Ob-La-Di, Ob-La-Da”も、“Band on the Run”も、そして、なにより“Live and Let Die”もサウンドの厚みと躍動感がまったく違う。もちろん、“Live and Let Die”のパイロと火柱と火花には客席から悲鳴が上がる。そして、先日『NME』のインタヴューで「観客が4万人もいるのに、この曲が入っていなかったとしたら、この曲を歌いたくなってしまうと思うんだ。みんなを一つにしてくれる曲だからね」と語っていた“Hey Jude”で本編は終わる。ケベック・シティでも、東京でも、名古屋でも“Hey Jude”がどれだけ素晴らしいかなんて言うまでもないだろう。

細かい演出や映像なども含めると、非常に多くの新基軸が採用されている「フレッシュン・アップ」ツアーだが、しかし、一番驚かされたのはアンコールだった。例の如く、“Yesterday”で幕を開けたアンコールは、“I Saw Her Standing There”、“Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)”、“Helter Skelter”と夢のような時間が過ぎていく。もう会場のビデオトロン・センターは異常な熱気である。もちろん、ポールのコンサートと言えば、最後はアルバム『アビイ・ロード』からのメドレーで締めくくられるわけだが、でも、その最後の最後がすごかったのだ。観客からのシンガロングに迎えられた“Carry That Weight”を終えて、いよいよ“The End”というところで、その映像は映し出された。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットに登場するバス・ドラムやイエロー・サブマリンといったザ・ビートルズの歴史を彩ってきたヴィジュアルを3Dで精巧にモデリングした空想の世界を経て、“The End”の最後の一音と共にポールならびにザ・ビートルズにとってある種究極とも言えるメッセージを提示してライヴは終わりを迎える。その瞬間に場内は紙テープとスモークだ。これは今度の来日公演でぜひ生で体験してもらいたいが、ポール・マッカートニーがここまではっきりとメッセージを出すことはあまりないし、ここまで追ってきた通り、キャリアの始まり、過去、そして現在、それについてここまではっきりと自分の意志を表明したツアーはこれまでにない。そう、ポールというのはいつもそういう人だけれど、この最新ツアーの全貌は「フレッシュン・アップ」という言葉に当初抱いたイメージを覆して、あまりあるものだったのだ。

セットリスト

A Hard Day’s Night
Hi, Hi, Hi
Can’t Buy Me Love
Letting Go
Who Cares
Come On to Me
Let Me Roll It
I’ve Got a Feeling
Let ‘Em In
Nineteen Hundred and Eighty-Five
Maybe I’m Amazed
I’ve Just Seen a Face
In Spite of All the Danger
From Me to You
My Valentine
Michelle
Love Me Do
Blackbird
Here Today
Queenie Eye
Lady Madonna
FourFiveSeconds
Eleanor Rigby
Fuh You
Being for the Benefit of Mr. Kite!
Something
Ob-La-Di, Ob-La-Da
Band on the Run
Back in the U.S.S.R.
Let It Be
Live and Let Die
Hey Jude

Encore:
Yesterday
I Saw Her Standing There
Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)
Helter Skelter
Golden Slumbers
Carry That Weight
The End

来日公演詳細

ポール・マッカートニーは10〜11月にかけて「フレッシュン・アップ」と題した新たなツアーで来日公演を行うことも決定している。

10月31日(水)東京ドーム
OPEN 16:30/START 18:30(予定)
S席:18,500円、A席 :16,500円、 B席:14,500円

11月1日(木)東京ドーム
OPEN 16:30/START 18:30(予定)
S席:18,500円、A席 :16,500円、 B席:14,500円

11月8日(木)ナゴヤドーム
OPEN 16:30/START 18:30(予定)
S席:18,500円、A席 :16,500円、 B席:14,500円

更なる公演の詳細は以下のサイトで御確認ください。

http://freshenup-japantour.jp

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