日高 央(THE STARBEMS)インタビュー

BEAT CRUSADERSのボーカル&ギターとして多くのロックファンの支持を集め、BEAT CRUSADERSの散開後も、数々のプロジェクトに参加し、2012年12月に”THE STARBEMS”を結成。自身のバンドだけでなく、楽曲提供・プロデュースまで行い、多彩な才能を持ったロック界でも唯一無二の存在、日高 央さんのロングインタビューを全4回に渡ってお届け!!第4弾となる今回は、最新シングル『ULTRA RENEGADES E.P.』から今後の活動についてを深くお伺いしていきます。

ーSXSWの熱量のままレコーディングされた『ULTRA RENEGADES E.P.』 について、解説頂ければと思います。まず1曲目の”LET LIGHTS SHINE”では、「世界中に明かりを灯そう」という単語に集約されていると思うんですけど「人々が行動することで」という風にも捉えられたんですが、歌詞も含めてそのあたりは如何でしょう?

最初はバンド内で繰り返してたフレーズ…、土曜か日曜にテレビでやっていた宗教系の番組のオープニングで言っていた言葉なんですけど「暗いと不平を言うよりも、すすんで灯りをつけましょう」という言葉が流行ったんですよ。昭和の子は1度は耳にしているフレーズじゃないですか。それがバンドのリハの時にやたらと流行って、誰かに「物取ってくれ」じゃなくて自分で取りに行ったらええやんかという風潮の中で生まれたブームだったんです。そういう中でオレも改めて宗教観を見直す機会があって、そういえばあの番組ってものすごくお固い宗教番組だけど、キャッチーなフレーズをあそこに持ってくることで間口を広げてくれているというか。で、気付くと街には教会って必ずあるんですよね。そこには特別な敷居とか柵は本来はないはずで。人間の感情がそれを作ってるだけだし、宗教差別とか世の中には全然あるわけじゃないですか。その宗教差別で分断されるのがすごく勿体ないしバカバカしいから、割とそういうオレなりの宗教観を歌ってる所でもあります。どこの地域とは言わないですけど、「プラスティック爆弾の音が聞こえるか」というのは結局、宗教で戦争が起こっちゃう国もあるわけじゃないですか。そういう問題提起みたいな歌詞ですね。

ー演奏面は如何ですか?

これは頭のベースが重要な曲なんですけど、今まで3回ぐらいしか成功してません(笑)

寺尾:レコーディングの時が奇跡的に上手くいったぐらいで、なかなか難しい曲です。ベースキッズのみなさんはコピーする時には頑張って頂きたい曲です!

ー(笑)あと、バスドラがとんでもないことになっちゃってますけど。

高地:あれも一緒でライブでは3回ぐらいしか成功してません。まあ多いですね…昨日まで名古屋・神戸・大阪とライブで行って来たんですが「やたら(バスドラが)入ってるね、忙しいね。」って対バンのドラムから言われました。

日高:誰から言われたの(笑)?

高地:「OVER ARM THROW」のエイジさんです。

日高:アハハ、オーバーアームは暇そうだから(笑)?

高地:そんなことないっす。コーラス一生懸命やってますよ(笑)

後藤:ベースとドラムが色々と詰め込んである分、ギターはシンプルになってると思うんです。(録音した)ギターの本数も1人1本ぐらいの感じなんですが、そこはライブのままの熱量に近い聴こえ方になっていると思います。

日高:今回あんまりダビングしなかったんだよね。時間がないっていうのもあったけど。普通はあんまりライブで再現出来ないフレーズが多いんです。すぐにニシ(越川和磨)くんとゴスケ(後藤裕亮)はライブで再現出来ないことやりたがるんで。だからやめてくれって(笑)

後藤:その分、ライブの熱量がそのまま入っていると思います。

ーそれでは2曲目の”PITFALLS”なんですが、僕の中では一曲の”LET LIGHTS SHINE”の「Each other’s helping hands?」という歌詞とリンクしているように思えました。

これもSXSWをやってる最中に歌詞を書いたんですけど、あんまり考えずに向こう行って、最初は歌いながら決めればいいやぐらいのノリだったんです。もちろん、震災を示唆している歌詞なんですけど、ちょうどSXSWのステージの時、機材が無かったんで前のバンドから借りてみたいな助け合いがあったんです。だからバンド同士の助け合いのことも、ちょっと個人的には入ってるんですよ。オレたちのステージは、イギリス・ブラジル・オレたち日本・アメリカのバンドと国際色豊かだったんですよね。それでオレたちの前のバンドが、トリオのガレージパンクバンドだったんですけど、ギタリストがガットギターにピックアップつけてエレキにしててメチャメチャカッコ良かったんです。音像とかルックスもカッコ良かったし。それで「これどうしたの?」って聞いたら金がないからゴミ箱で拾ったって。セッティングとか教わって、オレも日本帰ったらやってみるわって感じで交流が生まれたりして、そこから機材借りたり。

高地:そうです。直前にシンバルがなくて、どうしようってなって。

で、慌てて次にスタンバってた”MEAT MARKET”ってバンドにシンバル貸してくれってお願いして。あれは本当に美しい助け合いだったね。でもそれって日頃から転がってる話じゃないですか。年配の方に席譲ったりするような感じで。で、今日も電車に乗ってて思いましたけど、乳児を抱っこしてるお母さんを思いっきり無視して、大学生ぐらいのヤツがずっと座ってゲームしてるみたいな。本当に引っ叩いてやろうかなって思ったけど、実際は引っ叩くわけにはいかないんで歌で引っ叩こうという曲ですね、これは。ちょうど同じタイミングで”Grateful Dead”のジェリー・ガルシアが”Grateful Dead”を自分でマネージメントして、ライブの運営は全部自分らでやってて、仕事上の5つの心得みたいなビジネス書になってるのがありますよね?その本の中の有名な一文で”音楽に関わらず仕事には必ず落とし穴がある”ってフレーズがずっと印象に残ってたんで、”落とし穴”という意味の”PITFALLS”にしたんですよね。助け合いが必要だけど落とし穴もある、世の中の善と悪の両方みたいなのがテーマで意外と壮大な感じですね。そんなこと知らずに彼ら(メンバー)は演奏してるんですけど(笑)

ー(笑)

イントロはLenny Kravitzの”Are You Gonna Go My Way”的な感じだよね。オクターブの上と下でフレーズを弾くみたいな。みなさん意外だと思いますけど(笑)今レニクラ好きもちょっとダサいイメージあって可哀想だから、敢えて復活させてあげようと思ってやってみました。

ー(笑)3曲目”BOYZ OF NATIONZ”はパンクのイデオロギー全開みたいな曲ですね。

これは元々1stの時からあって、最初はもうちょっとサーフっぽいイントロだったんですけど「怒りが感じられない、怒り成分が薄いな」ってことで寝かしてたんですよ。それで怒り成分を増やして、前はコーラスもこんなにガツガツ入ってなかったし、イントロも優しい導入だったので厳しめにして、21世紀のOi!パンクみたいなイメージです。

ー炸裂してました。

“OiOi”言わなきゃって。面白かったのが「Snuff」のダンカンと弾き語りのライブをやらせてもらったんだけど、本場ロンドンのOiスキンズも経験してるロンドンッ子だから必ず語尾に”OiOi”って言うんですよ。「トオル元気?OiOi」みたいな(笑)50歳近いおじさんが目をギョロギョロさせながら”OiOi”言ってて可愛らしかったんで、Oiソングを欲しいなと思って”Oi”を強めにしました。

ー確かに存分に入ってますね。コーラスはメンバー全員入られたんですか?

日高:全員やったよね。高地もやったっけ?

高地:”O〜iO〜i”の所やりました。

日高:ちょっと彼は音程が…(笑)イカツイ所だけ、音程関係ない所だけやってもらいました。BPMもあげたよね?

高地&後藤:あげましたね〜

高地:10ぐらいはあげましたね。

日高:演奏出来てるの?

高地:あれは大丈夫っす!

日高:「あれは」って…大丈夫じゃないのどれよ?(笑)

ー(笑)そして4曲目”KING KONG FIVE (Mano Negraカバー曲) “ですが、これもメチャクチャ早いですね。

これも早い。

ービックリしました。

高地:あれは難しいっす。本当難しいっす(笑)出来ないっす(笑)

日高:あのイントロは未だにほとんど成功してないし、出来ないって言っちゃったね(笑)どういうこと?

高地:レコーディングは分けて録ったんです。

寺尾:そこだけね。

高地:「あそこだけやらせて下さい」って。だから無になってやりました。

日高:そういう宗教的なこと言われても判らねえよ(笑)宗教差別なのか(笑)?

高地:宗教は自由だって言ってたじゃないですか(笑)

日高:元々、1stアルバムの”FUCKIN’ IN THE AIR”って曲で「BEASTIE BOYS」っぽいヤンチャなパーティー感を入れてて。それで今回も90’Sっぽい曲をやりたいなって思ってた時に、ちょうど「Mano Negra」のこと思い出して。何がすごいかって、フランスのバンドなんですよね。60年代ぐらいから青春を送ってる日本人って絶対にアメリカかイギリスの支配から逃れられないじゃないですか?1回イギリスにハマっちゃうとアメリカをクソだって言うし、アメリカのヘアメタルっぽいのにハマっちゃうとオシャレなMODSとか全く分からないんですけど、ちょうどオレらの世代の時に分断があって、特にパンクロック出た時は、「THE EAGLES」がクソ、「SEX PISTOLS」最高って人と、「ALLMAN BROTHERS BAND」分からないヤツは音楽聴くなよって先輩は、逆に「SEX PISTOLS」とかあんなのロックじゃないって言ってたり。それをクダラねぇなと高校生のときぐらいから冷静に見ていたから、非英米圏のモノは貴重なんじゃないかと思ってて、「Mano Negra」「Les Negresses Vertes」とか思い出して。フランスから気炎をあげてくれていて、凄く印象に残ってたから「Mano Negra」は取り上げたいなってずっと思ってたんですよ。で、HIP HOPも好きなんだけど、かといって今「THE STARBEMS」でモロHIP HOPみたいなのは出来ないんで、間をとると超高速HIP HOPミクスチャーみたいな、リズム隊泣かせの曲になりました。

ー聴かせて頂きましたが、リズム隊も然りですが歌も大変ですよ。

日高:歌も大変ですね。コーラス大変だった?

後藤:もう本当すごい…

日高:1stアルバムのタイトルばりに血だらけになりながら?

後藤:文字通り血だらけになりながら(笑)

ー(笑)紹介頂いたシングル『ULTRA RENEGADES E.P.』を引っさげ、6月からツアーが始まりますが、ツアーの意気込みについてもお伺いしたいと思います。

高地:僕らのライブはいつも全力でやるし、もちろん観て欲しいんですが、素晴らしいゲストバンドが今回出演してくれます。もしかしたら初めて観るバンドもあると思いますが、それを見て感じて欲しいと思います。

日高:ドラムは聴かないように?

高地:”KING KONG FIVE”は聴かないで良いです(笑)対バンにも注目を!

日高:どこまで再現出来てるかも是非チェックしてもらいたいです!

高地:帰ったら練習だ…

寺尾:アメリカで経験してきたライブの熱量を日本のファンの前でも還元出来るように熱いライブをやりたいと思ってますので、是非ライブハウスに来て下さい!それで”LET LIGHTS SHINE”のイントロを厳しい耳で聴いて下さい。

高地:僕がちょっと早めにカウント出すので(笑)

寺尾:オイ(笑)

日高:リズム隊の騙し合いも見れるという(笑)

後藤:ライブを意識したシングル曲を是非聴いて欲しいです。そしてそれ以上に生々しいライブにしたいと思ってます。

日高:ここまでの意気込みは、みなさんの予想通りでしょうけど(笑)オレの個人的な目論見としては、2ndに向けて新曲をいっぱいやるぞという。

高地:聞いてない…

日高:デモはいっぱいあるんでやりながら作ろうと。今回のシングル曲もライブでは結構やってたんで。でもレコーディングで結構変えたか…REC前提のライブになるか、もしかしたらピクリとも動かないかもしれないです(笑)

ー(笑)

新曲を織り交ぜたり試したり、だから「ライブで演ったのにCDになりませんでした」もあるかもしれない。

ーライブのプレミアム感ってそういうのもありますよね。

逆にライブで一切やらなかったのに、新曲がリリースされるかもしれないし(笑)本当それは我々も演ってみないとなんとも言えませんが。ただ今予定しているのは新曲をいっぱい演れたら良いと思ってますので是非遊びに来て下さい。

ーありがとうございます。最後にTHE STARBEMSとして思い描いてることを是非、教えて下さい。

SXSWみたいな海外フェスにはまた行きたいと思ってて。今、インターネットが普及してフィジカルCDがなくなってきてるじゃないですか?SXSWが開催されたオースティンは2〜3軒しかレコード屋がなかったんですけど…それでもまだ良い方で、他は壊滅状態らしく、ちょうどシアトルから友人が来てくれたんだけど、シアトルは「Nirvana」いるから盛り上がってるかと思ったらそこも壊滅状態らしく…かといってインターネットがあるから日本のバンドが海外でどれだけ知られているかっていったら全然知られてないじゃないですか。「Crossfaith」や「FACT」みたいに積極的に海外に行かないとダメなんですよね。もうちょっとフラットにやれるやり方があるんじゃないかと思ってて、こっちからも海外のバンドをネットで知ってコンタクトを取っていきたいし、ネットでも発信していきたいですね。きっかけは、アニメでも何でも良いんですよ。だからSXSWは試金石としてすごく良かったんで、同じようなことをヨーロッパでもアジアでもやりたいです。理想としては、ビビアン・スーのパンク版みたいな?日本でも台湾でも知られているし、ちょっとアメリカでも知られている。チャン・ドンゴンとか俳優さんでも良いんですけど(笑)なんでああいう温度感のものが音楽で出来ないんだろうって思いますね。日本でも真田広之さん、渡辺謙さんとか…あれはハリウッドなのでちょっと規模がでかいですけど…もっとインディーなレベルで絶対出来ると思うんですよね。誰もそういうガジェットとかサイトとか方法論を見つけてないわけで、それこそCDとかアナログでやり取りをしてた頃って、もっとピュアだったはずと思うんですよね。別にオレはCDが是が非だとは思ってなくて。基本的には音楽が良ければ何でも好きだし、オレもダウンロードして音楽を聴きますし。今日もiPhoneでストーンズ聴きながら来たけど、iPhoneで聴くストーンズの音のスカスカさに比べれば、CDやアナログの方が音が良いに決まってるのは分かってるんですけど、否定することで文化を止めちゃうぐらいなら受け入れることでどんどん進んだ方が良いし、逆にこっちが面白いと思うことを提案していきたいですよね。THE STARBEMSもその入り口やきっかけになれたら良いなと思ってますね。だからみんなビビアン・スーを研究して。ポケット・ビスケッツだっけ(笑)?

後藤:ブラック・ビスケッツです(笑)

一同:(爆笑)

日高:今日一の盛り上がり(笑)

後藤:ビビアン・スーが初めて日本に来て「スーパージョッキー」に出た時から知ってますから。

日高:そうなの?みんなシーンとしちゃったじゃん(笑)

ー最後にすごいネタを頂いてありがとうございます(笑)

日高:ゴスケの発言で閉めんのやだな(笑)

一同:(爆笑)

ー日本に括られることなく、時流に逆らわずですね。

ネット時代ならではのフットワークの軽い活動をフラットにしていきたいですね。洋楽離れの原因はきっとそこなんですよね。CD買うのもダウンロードするのも面倒くさい。割とテレビやラジオで普通にイイ感じの聴けるから良いじゃないっていうのを何とかひっくり返したいんですよ。そういう意味では、気持ち的には未だに「おまんコール」してる感じなんで。今日は「ダサい音楽」って表現を使ってましたが、そもそも「ダサい音楽」ってリスナーが固執しちゃって、それしか見えてない状態がダサいんですよね。だから「WEEZER」に罪はない(笑)「WEEZER」はすごいバンドだしカッコイイんですけど、「WEEZER」しか分からなくて「WEEZER」以外の音楽に興味を示さない人はダサいと思うので、そういうダサさをなくしたいんですよね。そうしないと音楽も何も発展していかないし、結局ディープなアニメに引いちゃうのもそういう理由じゃないですか。アニメとかアイドルとか、結局ファンが固執し過ぎてて気持ち悪い。せっかくアイドルがいるのにコンサート行ってみたら引いちゃうようなオタ芸を見せられちゃうとかね。それがもったいないから、「BiS」みたいにクロスオーバーするアイドルを応援したいし「BRAHMAN」や「ASIAN KUNG-FU GENERATION」みたいに色々な人と対バンするバンドと一緒に演っていきたいですし、ジャンルもまたいでいきたいですね。椎名林檎ちゃんもそういう気持ちでセルフカバー集「逆輸入 ~港湾局~」にオレを呼んでくれたと思うし、こっちも異文化、異業種をどんどんね。せっかくプロレスモノマネ覚えて来たんで、レスラーなんかとも。

ー新日のオープニングでラウドがあってもハマりそうですしね。

オカダとか使ってくれたら嬉しいよねぇ…早速「レインメーカー」って曲が次のアルバムには入ってるかも(笑)


取材:2014.04.30
インタビュー・テキスト:Atsushi Tsuji(辻 敦志) @classic0330
撮影:Akisome

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