The Cheserasera、超満員の会場で仲間たちと迎えた始まりの日

それが強く伝わってきたのが、「No.8」の前のMCだった。「答えが出るような歌は、一生歌えないと思う。だって答えなんて出ないから」と宍戸。物事に、白黒をつけてしまうのは簡単だ。適当に落としどころを作って自分を納得させてしまえばいいから。けれど宍戸翼という人間は、絶対にそれを良しとしない。その葛藤や苦悩とどこまでも向き合って歌にする。だから彼らの楽曲には、1曲の中にも様々な感情が詰まっている。悲しいだけでも、前向きなだけでもなく、ただ人間らしい歌をずっと歌ってきたのだ。

The Cheserasera

 物悲しくも美しいギターフレーズとタイトなリズムで、ヒリヒリとした緊張感をもたらした「No.8」を終えたところでセットリストは折り返し地点を迎えた。束の間のインターバルを経て、宍戸がおもむろにオフマイクで歌い出したのは「幻」の冒頭だ。するとそれに続いて観客たちが大合唱。そこに美代一貴(Dr)と西田裕作(Ba)のリズム隊によるブラックミュージックさながらのグルーヴが加わって、壮大で包容力のあるゴスペル調のサウンドが会場をひとつにしていく。バンドを長く続けてきた中で失ったものの多さに落胆することもあるという宍戸。それでも、目の前にいる観客たちとこの先の未来を目指すことを約束し、「最後の恋」へ。宍戸が真っ直ぐな歌声で「このドアを開けたら/なにもないまっさらな朝日が/新しい僕らを照らすんだ」と言い放ち、それに呼応するようにぐっと演奏の密度が高まった瞬間には、彼らの強い決意を感じた。

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そう、彼らの歌う「終わり」は、いつだって「始まり」の合図なのだ。その後に披露された「月と太陽の日々」然り、ターニングポイントにはいつだって「終わり」の歌があった。過去の思い出に苛立って悲しんでも、次第に懐かしんで、そのうち結局愛してしまうのだ。これからもそんな憎めない痛みを山ほど連れて、彼らは前に進み続けるに違いない。ラストは美代が思いっきりパンクなビートを叩きこんでエネルギッシュなアレンジになった「I Hate Love Song」を力の限り演奏。宍戸は最後に、イベントタイトルに触れて「ちっちゃなフェンスは越えてしまえばいいと思う!」と伝えた。それは自分たちがそうであるように、会場に集った観客たちにも、自分らしくあってほしいというメッセージだろう。

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