佐久間正英 ラストインタビュー

ー「Ces Chiens」についての経緯を教えて下さい。

たまたまあの時期に何かグループ名を付けようかという事務所の意向もあって付けただけで今(早川義夫+佐久間正英)と特に変わらないですけどね。まあ僕も早川さんも犬好きなので(笑)早川さんが再デビューしたときのバックバンドが僕的にはあんまり好きではなくて、「僕にやらせて!」って売り込みました(笑)HONZIと一緒にやったのはその後ですね。

ーそういった活動の中、2000年後半には「CircularTone Records」の設立や「unsuspected monogram」での活動等、これまでとは違ったアプローチをされている印象を受けました。

それまでずっと音楽の仕事をしてきて、自分自身で「これはやっちゃいけない」「こういうことをやってないといけない」みたいな縛りを作ってしまっていて、そろそろそういったことを関係なくやっちゃっても良いんじゃないかっていうのがありましたね。例えばレコード会社を始めるにしても今までレコード会社と仕事してきた人間としてはそういうの始められないとか、新しいバンド始めるにしても縛りがあるとって考えると…好きなことやろうかなって思ったタイミングでしたね。

ー2010年に始められた「goodnight to followers」もそういった想いでのアプローチだったのでしょうか?

そうですね、たまたま「sound cloud」を知ってこれ面白いなって思ったのが最初です。で1回作って載せてみたら評判が良くて、「これは毎晩続けたら面白いな」って(笑)しかも著作権フリーで。今までだったら音楽家がJASRAC無視して音楽をアップするって出来ないじゃないですか。で、出来る時代になってそれを続けた結果に何が起きるのか見てみたいなっていうのがありましたね。

ーまさか1111夜続けるとは思ってもいなかったですよね?

そうですね、続けていくうちにそれなりにプレッシャーがあって。例えば夜待ってくれている人がいたりとかするので。それにめげずに淡々と続ける自分もいて。ただ、最後の方は別に健康でさえあればいくらでも続けられるっていうことが見えちゃったんですね。じゃあ辞めてもいいかなって。

ー1111夜で終わりを迎えた4日後に再びアップされたのが意外だったのですが続けられていたときとは違う心境だったのではないかと思うのですが?

まあ、遊びですよね(笑)作り続けている間は段々遊びじゃなくて真剣になっていって。自分のライフワークみたいな感じでしたから。

ー8月9日に公表された”goodbye world”以降、入院・手術・退院と、その軌跡は既に様々なメディアを通じて公表されていますが、ブログにありました「ただ救いの無い情報が受け手に与える”力”が怖かった。」に対しての様々な反響の中で、受け取った人々の心、また行動には、悲観的なことよりもむしろ「これからの未来」を連想することが多かったように思いますが、佐久間さんご自身はこの”反響”をどのように感じられたのでしょうか?

アップした日は夜中までずっとものすごい数のコメントがついていたのを見てて、面白かったですね。もう自分の事ではない、他人事のように。とにかく楽しんで(笑)コメントの1つ1つを見ていました。

ー印象深いメッセージはありましたか?

笑えるのがすごく多くて。笑っちゃいけないんですけど(笑)書いた人は笑い事ではないのですが本人からしてみると笑ってしまうようなコメント・メッセージがたくさんあったのが良かったです(笑)

ー受け取ったわたしたちを他所に(笑)すごく冷静にご覧になられてたんですね。

例えば「佐久間さんが癌だなんて知らなかった!」って書く方がたくさんいるわけですよ。それ「知るわけないでしょ!」っていう(笑)突っ込みどころ満載なコメントがいっぱいあって。温かい気持ちの表れではあるんですけどね。もちろん、今も頂きますけどライブするときとかもそうですけど「無理だけはしないで下さい」っていうお気遣いのメーッセージとかですね。実は無理をしないと歩くことすらキツイんです。無理をしないとライブなんて絶対出来ない。”goodbye world”は早川さんの一言で書いたんですけど、書いて良かったと思います。

ーびっくりしたのが手術も無事成功し、退院されて僅かな期間で9月9日(月)、渋谷のCLUB QUATTROで<TAKUYA Birthday Live2013 “Goddess of Discord N0.99”>にゲスト出演されましたがTAKUYAさんからのオファーだったのでしょうか?

そうです、フラフラだったんですけど。不思議なものでステージに立つと元気になって。QUATTRO階段上がるのも大変で、ステージサイドまで行ったときにはもう動けない状態だったのにステージが始まると動けちゃうっていう…

ーステージに立つということはブログにも記載されていた”やりたいこと”の1つでもあったのですね。時を経てプロデュースされた楽曲をメンバーと演奏されるのは大きな喜びだったのではないでしょうか?

そうですね、ジュディマリを一緒に演れるとは思ってもいなかったですね。この前(早川義夫+佐久間正英「The beautiful world」)のライブでもくるりが一緒に演ってくれたのもそうですね。

ー9月19日に”Hello World”と題された公演を早川義夫さんと行われましたが、「手術が済んで、いま一度演奏をすることができる身体に戻れるのなら、この人の歌でもう一度ギターを弾きたい。」が実現されました。題された”Hello World”にはどのような想いを込められたのでしょうか?

“goodbye world”って文章を書いた後である意味”再スタート”ですよね。ホントは”Hello World Again”なんですけど(笑)

ーライブでは早川さんが「いつか」という曲の中で、「♪生きてゆく姿がステキなんだ 佐久間正英 」と歌われましたが、このメッセージについては?

実はリハのときに一応ハマりがどうかだけ早川さんとチェックをしてたんですけどね。本人としては恥ずかしかったですね(笑)

ー”The beautiful world”ではコメントに
一生懸命やること。
そこに誤魔化しや妥協をしない事。
出来る事だけを出来る様にやる事。
当たり前の事を偉そうにやらない事。
ひたむきであること。
いつも新鮮である事。
自分の感覚を信じる事。
友達や仲間の助けを素直に受け入れること。
実際はカッコ悪くてもカッコよく生きようとする事。
とありました。これは正しく”美しいこと”であってそういった人々がいる世界こそ、”The beautiful world”と解釈できますし、当日のライブ会場がそうであったと思うのですが?

そうですね、温かい雰囲気の中で素晴らしい演奏が出来ましたね。ゲストのくるり含め、最初から最後まで。

ー10月7日には”Vacant World”も決まっていますが、ジャックスのデビュー曲と同題です。

高校生のときに初めてジャックスを聴いて「からっぽの世界」の映像は自分の中で持っていてそれから抜けられないですね。人間・自分の中の見てはいけない部分を見てしまった感じ。知らなくて良かったことを知ってしまった感じ。見たくない映像を見てしまった感じ。怖いものです、僕にとっては。まぁ変わらず、一生懸命やろうと思います。

ーありがとうございます。それでは最後にミュージシャン・音楽制作者に向けてメッセージを頂けますでしょうか?

僕にとっても永遠のテーマで未だに見えていないですけど、何の為に音楽をやるのか、何の為に音楽を続けるのかを探して下さい。

ー長時間お付き合い頂きありがとうございました。

いえいえ、歴史が長いんで(笑)


取材:2013.10.03
撮影:Eri Shibata
(2013.09.29 早川義夫+佐久間正英「The beautiful world」)
インタビュー:Atsushi Tsuji(辻 敦志) @classic0330

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