「この世界の渦中のひとり」として時代と、人と向き合う歌。初の全国ホールツアー「須田景凪 HALL TOUR 2021 “Billow”」

須田景凪

そのツアータイトルの通り、「MUG」「Carol」などセットリストの大半を『Billow』の収録曲で構成してみせたライブ展開からも、須田自身のアルバムに懸ける想いが伝わってきたこの日のアクト。スタンドマイクを包み込むように歌に感情を重ね、曲によってはテレキャスターを激しくかき鳴らし、会場の熱気を刻一刻と高めていく。

ひたすら真摯に楽曲を響かせることで、精緻な歌と音像がよりいっそう密度を増して、観る者すべての感覚を包み込んでいく。アシンメトリーに大小多数配置されたステージ後方の立方体のオブジェには、楽曲個々の世界観と共鳴するような映像が映し出され、オーディエンスの没入感をさらに高めている。

須田景凪

儚くも切実な愛と生命を綴った「メメント」の、神秘的なまでの音空間。舞台上に設置されたソファに腰掛け、フレーズのひとつひとつを噛みしめるように歌う、《形にならないこの心》の讃美歌=「Carol」。娯楽や享楽のためではなく、今この時代を懸命に生きる人の孤独や苦悩と共振するためのポップミュージック――そんな須田景凪の表現者としての矜持が、ライブの随所からリアルに伝わってくる。

ライブ後半披露した「Alba」では、映画『水曜日が消えた』主題歌起用に際し「百人百様の日々を肯定する楽曲にしたい」と須田自身もコメントを寄せていたこの曲のポジティブな高揚感が、会場の高らかなクラップを呼び起こしていた。

須田景凪

ライブ終盤まで一気に駆け抜け、観客に語りかける須田に、惜しみない拍手が巻き起こる。「少し懐かしい曲をやります」と演奏したのは、ボカロP・バルーン名義の名曲「シャルル」。弾むようなリズムと歌声が、オーディエンスを思い思いのダンスとクラップへと導いた。

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