レディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークはイスラエルとパレスチナの紛争について自身のスタンスを説明する長文を投稿している。
トム・ヨークは現地時間5月30日にイスラエルとパレスチナの紛争について言及する長文をインスタグラムに投稿している。昨年10月、トム・ヨークはソロ公演で観客からの抗議によってライヴを中断させることになっていた。
トム・ヨークは投稿を昨年のこの公演とその後の余波について言及するところから始めている。
「昨年、メルボルン公演で9000人の観客を前に最後の曲を歌おうとギターを手にしている時に暗闇からある人物に叫ばれた状況というのは、ガザで進行中の人道危機について議論する最適なタイミングだとは思えませんでした」とトム・ヨークは述べている。「その後、沈黙していると言われ、共謀していると見なされたことにショックを受けていましたし、このことに対応して、ツアーの残りの公演を続ける適切な方法を見つけるのには苦労することになりました」
「その沈黙と言われたもののは、苦しんでいる人々、亡くなった人々に敬意を示して、わずかな言葉で矮小化してはいけないという思いだったのですが、日和見主義的な集団に威嚇や抽象で埋める空白を与えてしまうことになりました。そうした機会を与えてしまったことを後悔しています。これは私のメンタル・ヘルスに重い負担を強いることになりました」とトム・ヨークは続け、自身の音楽が「いかなる形の過激主義や他者の人間性を否定する行為を支持することなどあり得ない」証左となっているはずだと述べている。
「人生をかけて同じミュージシャンやアーティストと仕事をしてきて見てきたのは、そのようなものへの抵抗であり、支配・強制・脅迫・苦難・威嚇を超えたものを作り出そうとする試みであり、その代わりに国境を越えた批判的思考、愛と経験の共有、自由な創造的表現を促すことでした」
「みなさんのためにも今ここで空白を埋めておきます。これではっきりするでしょう。私はネタニヤフと過激派の人間が完全に制御不能で、止めさせるべきだと思っていますし、国際社会はできるだけ圧力をかけて止めるべきだと思っています」
「自衛という言い分はとっくに通用しなくなっており、ガザとヨルダン川西岸地区を恒久的に支配したいというあけすけな欲望に取って代わっています」とトム・ヨークは説明している。「この超国粋主義的な政権は恐怖と悲しみを抱えた人々の影に隠れながら、批判を回避して、その恐怖と悲しみを使って、超国粋主義的なアジェンダを進め、今見ているようにガザへの援助を恐ろしくも封鎖するなど、ひどい結果をもたらしています」
トム・ヨークは2023年10月にハマスがイスラエルの音楽フェスティバルを襲撃して、市民が拉致されて拘束されていることにも目を向け、次のように述べている。「同時に、私たちを取り囲む『パレスチナ解放』という無批判なスローガンは、なぜ人質がまだ全員解放されていないのかという単純な問いに答えていません。なぜでしょうか?」
「ハマスは10月7日になぜ本当に恐ろしい行為を選んだのでしょうか? 答えは明らかなように見えます。思うに、ハマスは人々の苦難の影に隠れながら、同じようにシニカルな方法で自分たちの目的を達成することを選んだのです」
ガザ地区におけるパレスチナの実質的政府であるハマスの武装勢力によるテロ攻撃で1200人の人が亡くなっており、約250人がハマスによって人質に捕られたと『ガーディアン』紙は報じている。BBCニュースといったメディアによれば、イスラエルは現在も拘束されている58人の人質を解放するよう圧力をかけており、少なくとも20人は生存していると見られている。
2023年に紛争が激化して以来、ガザでは少なくとも54249人が殺害されており、そのうち3986人は今年3月にイスラエルが攻撃を再開した以降に亡くなったとガザ保健省は発表している。直近の10週間だけで約4000人が亡くなっており、国連はイスラエルの地上作戦によりさらに60万人以上が避難を余儀なくされたと指摘している。国連が支援する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」ではガザで50万人が壊滅的な飢餓に直面していると警告されている。
トム・ヨークは公の立場の人物が政治問題について発言するよう圧力を受ける状況にも言及している。
「ソーシャル・メディアでの魔女狩りはアーティストやその週の人物に発言するように圧力をかけてきますが、これらは緊張や恐怖を煽り、複雑な問題をあまりに単純化してしまうだけで、殺戮を止めたいと真に願う人々による対面での議論や理解への到達にはほとんど役立ちません」
「このような意図的な分極化は同胞のためにはならず、『私たちと彼ら』という対立意識を常に助長することになります。それは希望を破壊し、孤立感を持続させることとなり、過激派が自らの立場を維持するために利用してくるものなのです」
「毎日、自分のデバイスで恐ろしい苦難を目にしていると、『何かしたい』と思う気持ちが出てくるのは完全に理解できます。それは当然のことです。しかし、リポストや1〜2行のメッセージが意味があるという考え、特にそれが他の人間を非難するものであれば、危険な幻想だと思うのです。予期せぬ結果が生じる可能性があります」
トム・ヨークは次のように締めくくっている。「ここで書いたことが私や私と一緒に働く人々を標的にすることにした人々を満足させるものではないことは分かっています。彼らは穴を探して、今後も続ける理由を探してくるでしょう。間違いなくどちらの陣営にとっても、私たちは逃してはならない対象なのです」
「この苦しみ、孤立、死が止むことを祈り、共に人間性や尊厳、理解し合う能力を取り戻すことを願う何百万人の人々に加わることができればという単純な願いからこの文章を書きました。この暗闇が去る日が来ることを願っています」
トム・ヨークは2017年に抗議の声があったにもかかわらず、イスラエル公演を行ったことで批判も受けている。ロジャー・ウォーターズやサーストン・ムーア、ヤング・ファーザーズといったミュージシャンはアーティスツ・フォー・パレスチナを通してその決定に「再考を促す」公開書簡に署名していた。