沼澤 尚 インタビュー

ー沼澤さんからすれば、日本でリスナーとして触れていた人たちが、実際に先生としているというのは、普段の生活の中でアメリカのすごさを体現出来ていますよね。

学校に”TOTO”は平気でクリニックしに来ちゃうし。そういう毎日だから、英語が云々とかプロミュージシャンが云々とか、毎日がすご過ぎてそんなこと言ってる場合じゃない、そういう学校でした。日本にいたら「コンサートを客席で観れるだけでラッキー」な感じですけど、ここでは彼らは普通にそこにいるし、質問すれば応えてくれるし。学校は24時間開いてるからいつ行ってもいいし。授業そのものは18・19時とかまでに終わるんですけど、それからずっと朝まで学校の施設を誰でも自由に使っていい。
身近にここまで入ってくることは、日本では考えられないですよね。
そうそう。そういう連中が突然、毎晩のようにローカルでライブ観れるし、テレビつければ毎晩”David Letterman Show”が観れたし。”Steve Jordan”,”Will Lee”,”Hiram Bullock”がハウスバンドやってて、そんなもんが普通に観れちゃうから、毎日もう楽しくて仕方ないわけです。新聞を見れば、「今日”Jim Keltner”演ってる、行こう!」って。いきなりアメリカのすごさを実感してましたよね。

ーえ!?スタジオも使って良いんですか?

全部ですね。だからライブや映画を観に行ってる以外は、ずっと学校に入り浸りでしたね。

ーアパートには寝に帰るくらい?

そう。とにかく毎日学校にいるのが楽しかったので。それで授業は1年間で終了なんですけど、もう少し学校に残りたいと思ったんです。色んな情報や知識をすごい先生達から、大量に教えてはもらったことはもらったけど「まるで練習は出来てないな」と思って。1年後に卒業式があって、そこでは生徒たちが、演奏できる機会をもらえるオーディションが事前にあって、皆がそれぞれにバンドを作ってたんですけど、自分がいくつもに誘ってもらって、結果的にそのオーディションに通ったバンドが複数あって、自分仕切りのバンドでは”Steely Dan”やって。そこで全校生徒が選ぶ、人気投票のドラム・ベース・ギターが表彰されるんですけど、そのドラマーに自分が選ばれちゃったんです。

ーすごい!

「えー!?」って(笑)自分がそこでスピーチしてる映像とかVHSで撮ってありますよ(笑)

ー見たいですね!

そんなこともあって、先生達ともすごく仲が良かったんです。日本人だし、全然下手くそだったのに、学校ではやたら皆と仲良しで。

ー卒業式で表彰もされて、それでも「居させて欲しい」という直談判に行かれるわけですよね?

本当ならもう出なきゃいけないから、その為にビザが必要なんです。オフィスに相談しに行ったら「学費は半分だけでいいので、それで学生ビザ出してあげるから、 学校に好きなだけ居て好きなことしててOK!」って。おまけに「夏期講習で先生やらないか」って言われたんです。

ーえ!?その年のですか?

そう。夏の間、12週間くらいの夜間の「サマースクール」があって。それは入学試験もなくて、例えば今日ベースを初めて触れる人でも入れる。そういう子達にプライベートレッスンとして譜面の読み方教えたり、練習したものをチェックするというカウンセラーを頼まれたんです。「やるやるやる」って言って、学校に居させてくれて給料ももらい始めたんです。そうこうしてる内に「そのまま、この学校でレギュラーの先生にならないか?」って言われて、そのまま学校に残ることになっちゃって。このおかげでちゃんとアメリカ本土で就職先があって、きちんと住めることになったんです。

ーえー!?だって、元々…

そうですよね、そもそもドラムやってきたわけでもないし、ドラマーになろうなんて思ってないし、すぐ帰ろうと思ってましたし。

ーそれを超えるものが、最初の2年間であったという…沼澤さんのお話聞くと、よく”ドラム歴何年で”とかありますが、関係ないって思えますね。

あ、それは本当に全く関係ないと思います。自分がいい例ですよね。何年やったからその分上手くなるとか、まるで関係ないですね。子供の頃からやったからといって、必ず上手くなるってわけでもないですから。

ーまさかドラムで仕事になるなんて思ってもいなかったわけじゃないですか?

そんなもんそんな簡単になれるわけがない。それぐらいのことは分かりきってたし、別にドラマーとして夢とか希望とか野心とか持ってなかったですしね。
逆にそれが良かった様な気がしますね。

ー良かったんですかね?

「自分はドラマーになるんだ!」なんて考え方がまるでなかったですし。「んじゃあ、とりあえず帰って電通でイイか。」みたいなね(笑)

ー(笑)

普通にそれぐらいの考えでした。電通?TBS?慶応だから周りの連中は有名な大手の大企業とか、メジャーな銀行とか広告代理店とか。そういう名札をつけてると、軽くステータスだったりっていう。その感じがものすごく違うと感じていて、そんな感じだから大学でめちゃ仲間外れですよ。「何言ってんだアイツ、アメリカ行くとか言って。ほっとけあんなヤツ」みたいな感じですよね。

ー安心のステータスが沼澤さんにとってはつまらなかった?守られているというか…

おそらくそうだったんだと思います。はっきりと意識はしてないけど、居心地は良くなさそうで。自分にとって悪いことあるはずはないですし、彼らがそれぞれに良い人生を送ってると思うんですけど…何かが自分には違うなと思ってましたね。ただ、今考えると「親にとんでもない迷惑をかけ続けてきたな」っていうことしかないんですけど。

ー良い意味で自分にワガママであったというか…

いや、そこはもうはっきり言って最悪ですよね。父はとっくに亡くなっていますし。

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